第105章

翌日、午前9時。

医師が高橋遥のリハビリを行っている間、稲垣栄作はソファに腰掛け書類に目を通していた。そこへ古屋さんがノックをして入室し、稲垣栄作の耳元で小声で告げた。「稲垣社長、白井侑里の便はすでに離陸しました」

稲垣栄作は高橋遥の方を見やった。

高橋遥は明らかにそれを聞いていたが、表情は淡々として、まるで気にも留めないといった様子だった。

稲垣栄作の目が僅かに翳り、古屋さんに言った。「分かった、先に下がっていろ」

古屋さんは退室する際、高橋遥に一瞥を投げかけた。

医療スタッフも退室すると、稲垣栄作は手元の書類を置き、高橋遥の冷淡な様子を見つめながら静かに言った。「彼女はもう去...

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